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縮緬(ちりめん)絵
縮緬絵(ちりめんえ)というのは、完成品の錦絵に後から手を加えることで布地のちりめんによく似た細かい皺(凹凸)加工を施した浮世絵のことです。
江戸後期から明治にかけて盛んに作られましたが、製造に手間がかかることや、「完成品に加工を施す」という性質上、元絵以上に量産することができないため、一般の浮世絵に比べて現存するものは希少です。
一英斎芳艶/「明烏子向の一節」/文久元年(1861)/当サイト所蔵

布地のちりめんの場合は、織るときの縦横の糸の性質の違いでその効果を出すわけですが、錦絵の場合は和紙に後から加工を施すため、仕上がりはよく似た質感でも、その製法は全く異なります。
錦絵の縮緬の場合は、紙を縦横に「絞る(圧縮する)」ことにより皺加工を施します。
一枚の和紙をギュギュっと押し縮めるわけですから、出来上がったものは当然、圧縮された分だけもとの状態よりひとまわり小さなサイズになります。
具体的にどれくらい縮むのか、たまたま私の手元に同じ絵でちりめん加工を施したものとそうでないものと2種類がありますので、比較してみたいと思います。
歌川豊国(三代)「戌の春喜寿之書初 」河原崎権十郎/文久元年(1861)/当サイト所蔵
だいたい元絵の3分の2くらいに縮まっていますね。
縮められた絵は、紙のパリッとした触感とは異なり、なんというかグニャグニャした不思議な質感で、とてもこれが紙でできているとは思えない印象です。
柔らかいのですけど、「厚み」と「重さ」がありますので、布のちりめんともまた違う触感。
言葉で表現するのは難しいですが、例えて言うと薄くて柔らかめの皮革製品といった感じでしょうか。

サイズが変わったせいもあるのでしょうが、絵の印象もいくぶん変わって見え、元絵とはまたひと味違う楽しみ方ができます。
いつもながらこういう技法を思いつく江戸の人々の発想力には、本当に感服してしまいます。
こうした縮緬絵は、幕末から明治にかけて海外にも多く輸出され、人気を呼びました。
あのゴッホも縮緬絵を特に気に入っていて、部屋に飾って鑑賞していたことを書簡に書き残しています。
「ゴッホのジャポニスム」のコーナーでご紹介しました彼の書簡に、たびたび「クレポン」という表現が出てきますが、このクレポンというのが縮緬絵のことです。
ゴッホが1888年に弟テオに宛てた手紙の中で、
ビングの複製図版のなかで、僕は『一茎の草』と『ナデシコ』の素描、そして北斎がすばらしいと思う。しかし、人が何と言おうと、平板な色調で彩色された、ごく普通のクレポン(縮緬絵)が僕にとってはリュベンスやヴェロネーゼと同じ理由ですばらしい。
と述べているように、彼にとっての縮緬絵は、多くの浮世絵の中でもひときわ特別な存在であったことがよくわかります。
